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プロダクトインフォメーション(TB2274S)
携帯電話を始め、携帯用ゲーム機やカーナビ、スマートフォンなど、老若男女も問わず今やポータブル機器を持つことは当たり前となっています。その結果、ポータブル機器は常に落下・押しつぶし・水没・高低温・多湿・砂塵の危険に曝され、そして、これらの苛酷な環境への瞬間的な物理的耐久性はもちろんのこと、その環境下で安定した動作信頼性も求められるようになりました。
ポータブル機器内で使用される部品の中でも特にBGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Size Package)などの表面実装チップは、それ自体は基板への固着力が弱く、少しの外力で破断・断線する危険性があり、スリーボンドではいち早くそこに着目し、チップと基板の隙間に染み込ませて補強する“アンダーフィル剤”の開発を進めています。
アンダーフィル剤は表面実装チップと基板間で、物理的・熱的衝撃の緩衝材として作用します。
一般的に耐物理衝撃性を向上させるには無機フィラー量を減らし、樹脂を低弾性率化させる方が優位になります。
一方、耐熱衝撃性を向上させるには無機フィラーを高充填した方が優位になりますが、硬化物が硬く脆くなり、しかも高弾性率化するため耐物理衝撃性や浸透性も低下します。
この相反する特性を両立させたアンダーフィル剤は例がなく、ThreeBond2274Sがそれを実現しました。
解説者
久保山 俊史
研究開発本部 開発部 岡山開発課
低弾性率化による物理的強度アップ
高Tg化による耐熱性アップ
まず、エポキシ樹脂本来の耐水性や耐薬品性を損なうことなく分子内に自由度の高い結合を増やすことで化学的に柔軟性を与えることに成功しました。
さらに耐熱性を低下させやすい可塑剤を使わずに、耐熱性を維持したまま分子間柔軟性を確保することを可能にしました。
その結果、図1に示すような「高強度」「高靭性」「高剛性」を維持したまま「低弾性率化」する技術を開発することに成功しました。
この技術のポイントは、「弾性率をお客様の要望に合わせて自由にコントロールできる」という点です。
言い換えますと、お客様の機械設計上の制約を、アンダーフィル剤を用いることでカバーすることが可能です。
お客様での実機評価の結果、既存品の2倍以上の耐衝撃性を有することが確認されました。
「分子設計をしっかり行い、その骨格と配合比のベストバランスを見つけたことで、お客様の設計の幅を大幅に広げることが出来ました」(久保山)
耐熱性を向上させるには、シリカなどの無機フィラーを高充填するのが一般的ですが、この方法は樹脂の柔軟性を低下させるだけでなく、高粘度化するため浸透性を低下させます。
そこで、通常の使用温度領域である-40℃~85℃で安定した物性にするため、それを大きく上回るTgを設定すれば良いと考えました。ThreeBond2274SはTgが約124℃であり、既存商品より20℃近くも高くなります。
そのため前述の温度領域内で非常に安定した物性を示します。
もちろん無機フィラーを使用していないため、柔軟性や浸透性は維持されたままです。
図2はTgを変化させた場合の熱膨張量の変化を示したものであり、高Tgであるほど加熱による膨張量は少なく、安定した物性値を示します。
ThreeBond2274Sは実機でのサーマルサイクル試験の結果、既存品が500サイクルで断線したのに対し、2000サイクル以上の寿命が確認されました。
図3に示す通り、数値解析の結果からもThreeBond2274Sは温度サイクル時の応力集中を緩和し、アンダーフィル剤全体に応力を分散させることが確認されました。
ThreeBond2274S(図4)は柔軟性と耐熱性という相反する特性を両立させた、ハイスペックアンダーフィル剤です。
しかも、ユーザーの要望に応じてそれらを自在にコントロールすることが可能です。
「ポータブル機器の需要は今後も伸び続けるのは確実であり、世界中の人々があらゆる環境で安心して使えるポータブル機器を支えるのが、弊社の使命です」(久保山)
数年前まで、携帯電話は調子が悪くなったら機種変更するのが当たり前でした。
しかしもはや使い捨てはトレンドではありません。そこで現在は、BGA・CSPを配線基板から取り外すことが可能な「リペアラブルアンダーフィル剤」の開発に注力しています。
また、同時に環境負荷を低減した「ハロゲンフリーアンダーフィル剤」の開発も進めています。